第9回日本難病医療ネットワーク学会学術集会
2021年11月
「なぜ呼び鈴ではなくiPadを勧めるのか?機械ではなく機会を大切にするコミュニケーション支援を考える」
高橋 宜盟
一般社団法人 結ライフコミュニケーション研究所
「なぜ呼び鈴ではなくiPadを勧めるのか?機械ではなく機会を大切にするコミュニケーション支援を考える」
高橋 宜盟
一般社団法人 結ライフコミュニケーション研究所
発表内容
私の発表は、なぜ呼び鈴でなくiPadを勧めるのか?がテーマですが、iPadの機能や性能を紹介するために発表するのではありません。
私がiPadを勧める理由は、そこにアクセシビリティがあるからです。iPadにはアクセシビリティ機能が標準でついていますが、アクセシビリティとは、その機能それぞれのことではなく、選択の自由のことです。
私は、難病の方に限らず、特別支援学校に通う子どもたちや、重症心身障害児・者と呼ばれる人など、自分の声で話しをするのが難しい方のコミュニケーション支援の現場に出向くことが多くあります。
そこで「はい・いいえだけでもわかるようにして欲しい」という相談を受けることがあります。はい・いいえで答えられることは、一番難しいことなのですが、はい・いいえがわかれば、ケアがしやすくなると言うのです。はい・いいえが無理なら、せめて呼び鈴だけでもと言うのです。横で本人がそれを聞いているのにです。
え? 俺、呼び鈴を押すことしかできないの?ってショックを受けていると思います。
呼び鈴を押すことができたら、呼び鈴がなりますが、その先はありません。
呼び鈴を押せるなら、スイッチを押せることでしょう。スイッチが押せれば、iPadを使うことができます。iPadを使えるということは、iPadから呼び鈴を鳴らすことだけでなく、テレビやエアコン・電気など家電の操作もできますし、SMSを送ったり、もちろん会話をすることもできます。同じ1つの操作をするのであれば、次につながる1つが良いと思います。
呼び鈴で呼んできてくれた相手に頼み事をする場合、お願いしたことが実行されるかどうかは、相手に委ねるしかありません。それは不自由です。なんでもお願い事をきいてくれる人がいるとしても、ちょいちょいテレビのチャンネルを変えてもらうのは気が引けます。
呼んだらすぐきてくれるかどうかもわかりません。来てくれた時には、見たいテレビ番組は終わってしまっているかもしれません。
自分で機器の操作をするようになると、周りとの会話の機会を奪うことにならないか?と言う人がいますが、ほとんど誰かに頼らないといけない生活だと思っていた中で自分でできることが増える喜びは、間違いなく笑顔を増やしますし、話題が増えますし、周囲との会話が増えます。
周りの人も、いちいち呼ばれることが減りますから、時間の余裕ができます。その時間を他のケアに厚みを持たせることに使えるようになります。
これは、カード型のiPadのコミュニケーションツールの画面ですが、カードを選ぶだけで、自分で聴きたい音楽を選んでかけることができます。この中で一番人気のあるカードは、何だと思いますか?「停止」カードです。これが一番人気があります。音楽もテレビも、みんな周りの人がオンにしてくれます。だけど、誰も止めてくれない。時には、静かに物思いにふけりたい時もあります。番組が変わって恐怖映画になってしまったら消したいです。大音量の見たくもない映像と音楽は、ただの拷問です。この話をすると、たいていの人が苦笑いしてうなづきます。この問題の存在をわかっているのです。わかっていても、後回しにしてしまっているのです。このカードが使えると知った時に、驚きと安堵と喜びの表情をする人は多いです。
身体のほんのわずかな動きを使って、iPadを操作する仕組みは標準機能です。
エアコンや扇風機を操作したり、カーテンを開け閉めしたり、孫とテレビ電話で話したり、写真を撮って旅日記をつけたり、おしゃべりを楽しむことは、日常生活の中でやってみたいことです。
進行性ですので、とか、そろそろ終末期として考えましょう、とか、残存機能を活かしてできることを、だなんて言い方をして、周りが勝手に決めつけないで欲しい。諦めないで欲しいです。一緒に考えましょう。ネガティブなことを偉そうに言うのではなく、「なんだかよくわからないけど、楽しそうだよ?」って言うきっかけに、iPadは最適です。
「私は機械は苦手でして」って言う人がいますが、大丈夫。あなたにICTのスペシャリストになれって言っているのではないです。使う人のきっかけ・機会を提供だけしてください。使う人が考え、選ぶ、そのきっかけ・機会を提供してください。誰かの機会を奪うことがないようにしてください。
最終的に選ぶ・選ばないは本人の自由です。複数の選択肢があることを示すことは、選択の自由の保障です。そして、複数の道を知ることは、依存先を増やして生き残る術でもあります。それが、アクセシビリティという考え方です。通信もできるコミュニケーション機器を導入した時に、「これで、看病してくれる夫が倒れた時でも、救急車を呼べる」と、おっしゃった方たちがいました。
アクセシビリティのことを一緒に考えていきたいと思い、発表しました。
よろしくお願いします。ありがとうございます。